自分だけの繭が欲しい。恐ろしい外の世界を遮断してくれる、柔らかくて温かい繭が。

　外界から隔てられたぬるま湯に浸って、望んだ優しい物語だけを見ていたい。

　幼い子供みたいな、叶うはずのない願い。誰かに話せば、馬鹿みたいだと笑われるような願い。

　誰かに話せば、甘えるなと一喝されるような願い。そうやってフウカを笑う誰かは皆、フウカを助けてはくれなかったのに。

　人間なんて嫌いだ。誰のことも信じたくない。

　異質なひとつを勝手に作り上げて、排除しては優越感に浸る。手を取り合い幸せだと笑いながら、不幸な他人を平気で蹴落としていく。

　息を吸うことさえ困難な、汚い色だらけの世界。どうしてこんな場所で生きていかなければいけないんだろう。

　そうやって悲鳴を上げて閉じこもって、与えられた不幸に籠っている。

　フウカにとって憧れの象徴だった物語は、いつの間にか逃避のための場所になっていた。